Claude Codeに入力したコードや会話、「その内容はどこに保存されるのか」が気になる場面があります。その先にあるのが、Zero Data Retention(ZDR)という仕組みです。一言で言えば、Anthropicがユーザーの入力・出力を一切保存しない特別な契約上の取り決め。ただしこの「ゼロ」は、FreeプランやProプランには適用されません。自分がどの枠組みで使っているかによって、データの扱いが変わります。
Zero Data Retention(ZDR)とは
ZDR(Zero Data Retention)は、AnthropicがAPIレスポンス返却後に、ユーザーの入力データと出力データを原則として保存しない契約上の取り決めです。ただし、法令対応や不正利用対策など、例外的に保持される場合があります。通常、Anthropicのサービスでは送信された内容が最大30日間保持されますが、ZDRが適用されるとこの保持期間がゼロになります。
ここで押さえておきたいのは「ゼロ」の意味です。ZDRが適用される状態では、入力や出力はAPIレスポンス返却後に原則として保存されません。通常のデータ保持と比べて、Anthropic側に残るデータを大きく制限する仕組みです。
ただしZDRは、誰でも使える設定ではありません。Anthropicの企業向け契約の中でも、ZDR契約またはZDR arrangementがあるCommercial組織で、対象APIや対象機能を使う場合に適用される特別な取り扱いです。Free・Pro・Maxの一般ユーザーには適用されません。なお、個人のAPIキーでClaude Codeを使っている場合は、このZDRの対象外となります。
なぜZDRがあるのか
ZDRが存在する理由は、企業や組織のセキュリティ・コンプライアンス要件にあります。医療機関が患者データを扱う場面、金融機関が取引情報を扱う場面――そうした機密性の高いデータをAIサービスに入力することへの不安は、実務上の大きな壁になります。「データが外部に保存される」という事実一つで、AIの導入そのものを見送る組織も少なくありません。
ZDRはその壁を下げるための仕組みです。HIPAA(米国の医療情報プライバシー法)への対応や、BAA(Business Associate Agreement=業務委託先との守秘義務契約)の締結が必要な組織にとって、入力データが保存されないことは前提条件になります。
医療や金融に限った話でもありません。自社のソースコードや顧客情報をClaude Codeに読み込ませる場面を想像してみてください。組織のAPIキーを使っていればZDRが適用される可能性がありますが、個人のAPIキーで同じ操作をするとデータは最大30日間保持されます。自分の組織がBAAを必要としているか、扱うデータに機密性が関わるか――その判断がZDRの必要性を分けます。
デフォルトのデータ保持との違い
ZDRがない場合、Anthropicはユーザーの入力・出力を最大30日間保存します。目的は不正利用の監視(abuse monitoring)で、ユーザーセーフティ分類器という仕組みで自動チェックされています。
ここで混同しやすいのが、「モデル訓練に使われない」と「データが保存されない」の違いです。モデル訓練へのデータ使用と、データの保持(保存)は異なる概念です。
2025年8月のConsumer Terms改定により、Consumer(Free/Pro/Max)ユーザーは、チャットやClaude Codeのcoding sessionをモデル改善に使うかどうかを選択できるようになりました。出典はAnthropicのConsumer Terms(https://www.anthropic.com/policies/consumer-terms)で確認できます。しかし「モデル訓練に使われない」だけであって、データが保存されないわけではありません。Consumerプランでは、モデル改善への利用を許可していない場合でも、通常はデータが一定期間保持されます。モデル改善を許可しない場合は既存の30日保持が継続し、モデル改善を許可した場合は最長5年保持される場合があります。
つまり、ZDRが適用されなければデータは保存される――モデル訓練に使われるかどうかとは独立した話です。この区別を押さえておくと、後のセクションが理解しやすくなります。
ZDRが適用される対象・されない対象
ZDRの適用有無を整理すると、ざっくり次のとおりです。
AnthropicのZDRが適用される可能性があるケース:
– ZDR契約のあるAnthropic Commercial組織で、対象APIを使う場合
– ZDR契約のあるCommercial組織のAPIキーをClaude Codeで使う場合
– ZDRが有効なClaude Enterprise経由でClaude Codeを使う場合
AnthropicのZDRとは別枠で確認が必要なケース:
– Amazon BedrockやGoogle Cloud Vertex AI経由でAnthropicモデルを利用する場合(各クラウドプロバイダー側のデータ保持・コンプライアンス条件を確認する必要がある)
ZDRが適用されないケース:
– Free・Pro・Maxの一般プラン
– Claude.ai(ブラウザ版)などのConsumer製品
– Claude Codeを個人アカウント(Free/Pro/Max)で利用している場合
上のリストで、自分がどちら側に当てはまるかを確認しておくと、ZDRの有無を判断しやすくなります。Consumer側に当てはまるなら、今のところZDRは適用されていません。ただしConsumerプランでも、先述のとおりモデル訓練へのデータ使用はオプトイン制(デフォルトで不使用)になっています。
Claude Codeでコードを書いている場合、自分がどの枠組みで動いているのかを確認する方法は後のセクションで触れます。なお、公式ドキュメントでは現在、Claude CodeにおけるZDRはClaude for Enterprise経由での利用を正式ルートとしている点も押さえておきましょう。
Claude CodeでZDRはどう関係するか
Claude Codeでは、認証方法によってZDRの有無が変わります。組織のCommercial APIキーを使っていればZDRの対象になる可能性があります。一方、個人アカウント(Free/Pro/Max)でログインしている場合はConsumer扱いとなり、ZDRは適用されません。
自分がどちらの枠組みで使っているかは、Claude Codeの起動時の認証方法で判断できます。APIキーを環境変数(ANTHROPIC_API_KEY)に設定して使っている場合、そのキーがCommercial組織のものかどうかが分かれ目です。環境変数の設定方法については、エラー修理の実践などでも触れられています。Free・Pro・Maxの個人アカウントでブラウザ認証している場合は、基本的にConsumer扱いと考えてください。企業契約やEnterprise経由で使っている場合は、組織の管理者または契約条件を確認する必要があります。
自分のコードやプロジェクト情報がどう扱われるかという点では、Consumer枠組みであれば入力内容は最大30日間保持されます。モデル訓練には使われませんが、「保持ゼロ」ではありません。この違いを混同しないことが、実務上の第一歩です。
初心者が混同しやすいポイント
ZDRに関してよくある勘違いをいくつか挙げておきます。
「ProやMaxを契約しているからZDRも適用されているはず」――いいえ。Pro/MaxはConsumerプランであり、ZDRは企業向けAPIの特別な契約上の取り決めです。プランの等級とは無関係です。
「モデル訓練に使われない=データは保存されない」――これも別の話です。Consumerプランではモデル訓練への使用はオプトイン制ですが、データの保持(最大30日間)は別途行われます。
「ZDRをオンにする設定がある」――設定スイッチで切り替えられるものではありません。ZDRを利用するには、Anthropicとの企業契約(現在はClaude for Enterprise経由が正式ルート)が必要で、通常はSalesへの問い合わせとBAAの締結が伴います。追加料金の有無や契約条件は非公開とされています。
BAA(Business Associate Agreement)は、米国の医療情報プライバシー法(HIPAA)に基づく業務委託先との守秘義務契約です。ZDRの契約とセットで話が出ることが多く、混同されがちですが、BAAは法的な枠組み、ZDRは技術的なデータ保持の取り決めという違いがあります。
まとめ:自分の状況を確認する
ZDRは「Anthropicがユーザーの入力・出力を一切保存しない企業向けの契約上の取り決め」です。一般のFree・Pro・Maxプランでは適用されません。
自分がどの枠組みでClaude Codeを使っているかは、次の手順で確認できます。https://console.anthropic.com にログインし、Organization設定で組織の種類(ConsumerかCommercialか)を確認してください。Consumerであれば、現状ZDRは適用されていません。
次にやること:
– ZDRが必要なケース(組織で機密データを扱う、BAAが必要)→ Anthropic Salesに問い合わせてCommercial契約の可能性を検討する
– ZDRが不要なケース(個人利用、機密データを扱わない)→ Consumer Termsのデータ取り扱い(モデル訓練不使用、最大30日間保持)を理解しておく
– Bedrock・Vertex AI経由での利用を検討している → 各プロバイダーのZDR設定についてドキュメントを確認する
